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「ゴジラ」

芹沢博士萌え。と思って読んでいただくほうがよいかもしれません。(笑)

「ゴジラが来る夜に」を読んで、最初の「ゴジラ」を見たくなった。見るだけで何か書くつもりはなかった。何の思い入れもない一見のわたしなぞが「ゴジラ」について何か書くなんて、僭越に思えたのだ。僭越だと思いながら書いている。もしゴジラファンの方がごらんになるのであれば、外野のわかってない感想と思って大目に見て頂きたい。

いわば「ゴジラが来る夜に」の内容を確認するために「ゴジラ」を見た私は、とある一節について「本編を見ても私はそうは思わない」と思った。「ゴジラが来る夜に」「ゴジラの謎ー怪獣神話と日本人ー」の内容にはおおむねなるほどと思っている。知らないから判断できない部分も多いが。今から書くことは、これらの本をきっかけに思いついただけで、反論ではない。これは「論」とはレベルの違うただの感想であること、一部分だけを取り上げて揚げ足を取る意図でないことはお断りしておきたい。<前置きが長えんだよ。

さて、私がきっかけにした「ゴジラが来る夜に」のある一節とは、オキシジェンデストロイヤーを発明しゴジラを倒す、芹沢博士についてのくだりである。
「悪魔の兵器を手にした芹沢と「原水爆そのもの」としての性格を有するゴジラは、ひとつのものといってよい」
「芹沢博士は、現実のすべての華やかさ、強さ、明るさといったものからかぎりなく遠い場所にいる」
「ゴジラと同じ闇をせおう芹沢だけが、ゴジラを闇の世界に引き戻し、封じ込めることができたのである。」

読んで私は「なるほどね」と思った。そして「ゴジラ」を見て、芹沢博士は「闇」に属する人だと言って良いものだろうか、と思った。私はこの人は「まっとうな」「まっすぐな」人であると思う。「闇」はいろいろな意味を含む言葉で「暗い」「悪い」という意味で使われているのではない。それに、ゴジラを軸にした現代批評に対して「芹沢博士ってそんな人じゃないよ」という身びいき発言でまぜかえすのもどうかと思う。そこでそれらしく体裁を整えれば以下のようになる。
「ゴジラが来る夜に」にはいろいろな主張がでてくるが、そのなかに荒っぽくまとめれば「ゴジラは「人間が変わること」を迫る怪獣である」ということがある。そして、私はゴジラも芹沢も人間に変化を迫ると言う点で同類なのだと思う。しかし、「ゴジラと芹沢博士は同じことを主張する」にもかかわらず「ゴジラと芹沢博士は正反対の性格でもってそう主張する」と思う。

本編中の芹沢博士はたしかに「暗い」。初登場シーンなんかむちゃくちゃ怪しい風体だし、2回目の登場(恵美子が新聞記者を伴って訪れる場面)でも「あなたを信用するから見せるのだ」などと言を労して、しっかりした女性のはずの恵美子が悲鳴を上げて実験室を逃げ出すような内容の研究を見せつける、見ようによっては悪趣味な行為だ。黒い眼帯でも隠し切れない傷跡のある顔貌や、白衣の前を無造作にはだけいつも前かがみの姿勢のため、白い半袖開襟シャツの偉丈夫尾形との対比でどうしたって暗い奴に見えてしまう。しかしこれは、オキシジェンデストロイヤーの使用を承諾する時の芹沢の決意を際だたせるための、いわば観客の「この人は得体の知れない人」という予測を「じつはよい人だったのだ」と裏切るための演出ではないのだろうか。だとしたら私はまんまとこの演出に乗せられたわけではあるが。

揚げ足を取るようで申し訳ないが、芹沢博士は「人間を信用していない(恵美子も含めて)」というのは本当だろうか。彼は言葉どおり恵美子を信用したから「命がけの研究」を見せたのではないか。そして恵美子は芹沢の信用に足る女性なのだ。彼女はゴジラに襲われた人々の惨状を見るに見かねて芹沢の秘密を尾形に話してしまう。芹沢の研究を兵器に使用するよう説得するために。そのとき芹沢は裏切られたと思っただろうか。
思わなかったと私は思う。彼は「人間は弱い」というが、弱いことを責めようとは思っていない。恵美子がオキシジェンデストロイヤーをゴジラを倒すために使ってくれと説得にやってくるのは、芹沢にとって当然のことなのだ。言ってしまえば彼は、だれかが、自分の信用している誰かが自分を説得にやってくることを望んでいたのだ。彼が自分の研究が兵器として使用されることを恐れ、隠そうとするのはなぜか。その彼が傷つき逃げ惑う人々を助けられるとわかっていてなお隠し続けられるものだろうか。もし隠し続けたとしたらそれこそ彼は一生心の傷を負い続けることになるのではないか。

戦争によって傷つき、人との交わりを避けるようになったというがそうだろうか。彼は昔から超然と自分の研究に没頭する人ではなかったのか。少壮の天才科学者、将来を嘱望される美貌の青年に擦り寄っていたのはまわりの人たちだったのではないか。彼が今も昔も自分であり続けたが、無残な戦争の傷を見たくない人々が彼を避けるようになっただけの話ではないのか。恵美子にしたところでいまでも芹沢を兄のように慕っていると言明している。もし、芹沢の方が恵美子に好意を寄せていたら、恵美子はそれにこたえたのではないか。芹沢博士は孤独を好む人かもしれない。だが孤独であるからこそここまで考え抜くことができたのではないか。ひとと交わらないことがすなわち心に「闇」を飼うことの証だろうか。それはちがうと私は思う。

ゴジラを殺すことに反対する山根博士についても、娘の恵美子の言葉では「動物学者だからゴジラをむやみに殺したくない」となっているがそれだけだろうか。ゴジラ出現のニュースを聞いて外国から駆けつけてくるのは、ゴジラを退治するための援軍でも、災害救助隊でもない、調査団である。水爆実験を生き延びたゴジラの生命力を研究することはすなわち核の恐怖の時代を人間が生き抜く決め手になるかもしれないのだ。核戦争を勝ち残るのはだれか。強力な核兵器を持つものではなく、放射能汚染を生き延びられるものかもしれない。だが、日本政府は調査どころか、水爆怪獣が国際問題になる前に抹殺することだけを急いでいる。山根博士がゴジラを殺さず研究することを主張するのは、もし核と共存して生きることを真剣に考えるならば、人間もまた変容する覚悟がいるのだと考えているからではないだろうか。だが山根博士も愛する恵美子や尾形に向かって、核戦争に生き延びるためには人間もゴジラのように変化しなければならないかもしれない、などという残酷なことは言えない。だから彼はひとり闇の中でなければ突き詰めて考えることができないのである。

芹沢博士がゴジラを倒すことと引き換えに自分の命を絶ってしまうことを、私は悲しいと思う。なんとかして芹沢博士に生き続けて欲しいと思ったし、清濁併せ呑むことができるのが健康な精神であまりにも潔癖なのは病的だとか、「現実的な」「次善の」選択をすることも必要だとか、とにかく生き続けてあとのことはそのとき考えればいいとかいう考え方で芹沢博士を思いとどまらせることができるだろうかなどと考えた。でも、彼は死ぬことによって兵器開発にかかわるすべてのひとに、すべての科学者に問いかけているのではないか。「あなた方は最善を考えて選んだのだろう。でもその選択は本当に命がけで考えた結論なのかもういちど考えて欲しい」と。彼は人間の弱さをも愛しているが、その弱さに屈するだけが人間でないことを身をもって示したのだ。

ゴジラの生き続ける世界は、人間が核のある世界に順応して変化する世界である。芹沢博士の生き続ける世界は、人間が大量破壊兵器を手放して変化する世界である。しかし、人々は変わろうとはしない。けが人や孤児をよそめに「商売上がったり」と陳情に訪れる人々はあすの変わらぬ生活をのみ信じている。尾形や恵美子にしてもゴジラ上陸のニュースを聞きながら、自分たちの交際を恵美子の父に認めてもらう算段をしている。水爆怪獣だなどと公言したら国際問題という国会議員も今の秩序を維持することだけを考えているのだ。人はゴジラがいなくなって自分たちの平穏な?生活が続くことをのみ望んでいるのだ。

人間を見下ろすゴジラは怖い。だが、オキシジェンデストロイヤーの泡のなかに溶けてゆくゴジラは美しい。ゴジラには人を害する意図も悪意もない。ゴジラはただ力である。だからその滅び行く様は悲しくて美しい。そのゴジラの美しさを見つめ続けられるのは芹沢博士の隻眼のほかにはない。それは彼が人間としてそこにいるからである。人間に傷つけられてもなお人間を信じること。ゴジラを滅ぼす力を持っているのに、それが人間を害することを恐れて自分も力も消し去ってしまうこと。それを強さと呼ぶかと弱さと呼ぶかは字面の問題である。結論の出ない考えや迷いや行き場のない想いを身の内に抱えつづけられる者が、大雑把にまとめてしまえば人間であることを突き詰める者だけがゴジラに向き合えるのだ。だが、ゴジラを見つめる芹沢博士の眼は、おまえもおれも人の世を変える事は到底できないのだ。と、そういっているように見える。深く考えず変わらぬ生活をのみ望む人々のために、おまえとおれは滅びるのだ、と。そういう意味でゴジラと芹沢博士は同類であり、かつ正反対であるのだ。

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